60代で初めての転職
私は企業の人事の立場として多くの候補者の面接を見てきました。
特に、役職定年や定年後のキャリアチェンジを迎えた60代の方が
「子どもが小さいので、給与を下げたくない」「住宅ローンが残っているからアップしたい」と口にされる場面は、決して珍しくありません。
もちろん、家族を支えたい、生活を守りたいという思いは否定されるべきではないし、責任感としては立派なものです。
しかし逆の立場になって想像してみてください。
企業の経営者や人事担当者が、候補者の生活事情だけを理由に給与を決めることがあるでしょうか?
答えはNOです。
どれだけ生活が大変でも、企業が支払うのは「期待される貢献」に対する正当な対価でしかありません。
これは私たち人事の現場では当たり前の感覚です。
だからこそ、60代の転職活動では、「自分の市場価値をどう表現するか」、
そして「その価値をどう相手に納得してもらうか」が本当に大切になります。
企業は「生活背景」ではなく「貢献度」に給与を払う
改めて強調しますが、企業は候補者の生活を支えるために報酬を払っているわけではありません。
人件費は“投資”であり、その人がどれだけ会社に価値をもたらすかで決まります。
具体的には、次のような要素で年収レンジは判断されます。
・どんな役割を任せられるか
・即戦力としてどれくらい稼働できるか
・若手や他の社員との報酬バランス
・将来どれだけの成果を期待できるか
SES企業でもITコンサル企業でも、これは共通です。
「子どもが小さいから、学費がかかるから」ではなく、
「この人にいくら投資すれば、どれだけの利益が返ってくるのか」
という一点が、経営の視点では最も重要です。
NGな伝え方が与える印象と、よくある見送り理由
実際に、面接で“生活事情ベース”の話を強調しすぎたことで、
内定に至らなかった事例を私は何度も見てきました。
❌ NGパターン例
【NG例①】「条件優先で選んでいる」印象
「仕事内容には興味があるんですが、年収が前職より下がるなら考えにくいです。」
→ 仕事の中身よりも条件を最優先する人は、企業からすると「志望動機が弱い」と見えます。
【NG例②】「自分の都合だけを押し付ける」印象
「子どもが小さいので、年収は前職と同水準でお願いします。」
→ 気持ちは理解できますが、「あなたの仕事の出来栄えと関係ありますか?」という疑問を持たれます。
【NG例③】「譲れない人」「交渉余地ゼロ」印象
「最低でも年収800万円はないと生活が回りません。」
→ 高圧的に伝えると、企業側は「他社でも条件面で折り合えないだろう」と判断し、選考から外すしかなくなります。
「子どもが小さいから」は逆効果になりやすい
改めて言います。
「子どもが小さいから給与を下げたくない」という発言は、
面接の場では相手にとって何の説得材料にもならないどころか、
「この人は自分の都合しか考えていない」と誤解される危険性があります。
生活事情が理解されないわけではありません。
ただ、給与決定の材料にはならないというだけです。
だからこそ重要なのは、どう言えば前向きに伝わるか? という“伝え方の技術”です。
正しく伝える3つのステップ
ここからは、私が人事として強くお伝えしたい「伝え方のコツ」を整理します。
✅ ステップ① 「貢献意欲」を最初に示す
給与の話をする前に、「この会社でどんな価値を発揮するか」を具体的に語れる人は、
それだけで信頼感が増します。
例えば、
「これまでのマネジメント経験を活かして、御社の●●という課題を早期に解決するために貢献したいです。」
こうした前置きがあるだけで、「条件だけの人」ではなく「貢献してくれる人」として見てもらえます。
✅ ステップ② 「希望」ではなく「お願い」として柔らかく伝える
給与条件は“交渉の武器”ではなく、“相談の材料”です。
「家庭の事情もあり、可能であれば現収に近い条件だと非常にありがたいです。」
「責任を持って働くためにも、待遇面もご相談させていただければ幸いです。」
お願いベースで伝えると、相手は「条件交渉」というより「一緒に解決する話」と受け止めてくれます。
✅ ステップ③ 「家庭事情」は働く覚悟の裏付けとして活かす
子どもが小さい、学費がかかるなどの話は、
給与交渉ではなく“志望動機”や“覚悟”として使うとプラスになります。
「子どもがまだ小さいので、家族のためにもここでもう一度しっかり働いて成果を出そうと決意しています。」
これは前向きさや責任感の証明になります。
ただし、タイミングを間違えると逆効果になるので、
給与交渉の場面ではなく、自己紹介や志望動機の中で自然に触れるのがベターです。
伝え方ひとつで「評価される人」と「されない人」は変わる
私が企業人事の立場で面接に立ち会う中で、
本当に多くの60代の方が「言い方を少し変えるだけで結果が変わった」という例を見てきました。
✅ 評価される人の特徴
・条件の話も「お願いベース」
・柔軟性がありそう
・家族の話も前向きに補足的に話せる
❌ 評価されない人の特徴
・「最低●万円」と強気で一方的
・生活背景を“盾”にする
・過去の年収や肩書きに固執している
ケース別アドバイス:よくある3パターン
🔹 役職定年後で年収が大きく下がる提示を受けた場合
→ まずは「新たなチャレンジとして一度受け入れる」という姿勢を。
最終条件提示の際に「責任範囲に応じて相談も可能でしょうか」と控えめに聞くのが良いです。
🔹 子どもが私立に通っていて支出が多い
→ 給与交渉の理由にするのではなく、志望動機の裏付けとして伝えましょう。
🔹 家計的に給与が300万以下だと厳しい
→ まずは職務内容を理解し、「この責任範囲での想定年収は?」と逆質問を。
その上で「可能なら最低ラインが300万円程度だとありがたいです」と相談ベースにすると◎。
まとめ|「子どもが小さいから」は戦略的に言葉を選ぶ
60代で初めての転職は、家庭や生活の責任がまだ大きい方が多いのは事実です。
だからこそ、「給与を下げたくない」という思いはよくわかります。
でも、その思いをそのままぶつけるのではなく、
「どう言えば企業にとって納得できるか」を考えるのが、面接での最重要ポイントです。
私の立場から強くお伝えしたいのは、
企業はあなたの生活を守るために給与を払うのではなく、あなたの貢献に期待して投資するということ。
だからこそ、自分の市場価値は何か? それをどう伝えるか? を面接前に整理して、
覚悟と準備を持って挑んでください。
あなたの経験は必ず強みになります。
言葉の使い方ひとつで、それを活かせるかどうかは大きく変わります。
💡 あなたなら、どう伝えますか?
「子どもが小さいから」
その一言を、単なる事情ではなく“覚悟の裏付け”として表現できるかどうかが、
60代の転職を成功させるカギです。